「地下鉄の匂いが好きだ。」
ふと、思い出した。
正確には地下鉄に降りる入口に差し掛かったとき、地下から吹き上げる風とともに香る匂い。それも地元を走る南北線の。
表現が難しいのだけど、他人の家の匂いのように独特な、それでいてカビ臭いとは違う、建造物特有の無機質な成分が混ざりあった匂い。
人によっては良い香りじゃないのかもしれない。
でも、物心ついた頃からずっと好きな匂い。
そういえば、小学校のアルバムに書いた将来の夢は『地下鉄の運転手』だった。
幼い頃、両親や祖父母と出掛けるとき、車よりもバスや地下鉄などの交通機関に乗るのが好きでわがままを言っていたのを思い出す。
巨大な乗り物を操る運転手さんに、
大きなロボットを動かして敵をバッタバタと倒す戦隊モノのヒーローを重ねていた。
僕もいつかあの大きな乗り物を操るんだ!
信じて疑わなかった小三の夏。
…その後、中学、高校と将来の夢は
地下鉄の運転手→アナウンサー→バンドマン
と、何の脈絡も繋がりもなく移り変わっていくわけだが。
で、結局、今の仕事は人事・広報。何だかね。
でも、憧れなんてそんなもんか笑
人事・広報のオシゴト。
有難いことにたくさんの方々との出会いがあり、お食事をご一緒させて頂くことが多い。
お店は自分で選ぶことも、ご招待頂くこともあるけれど、ひとつ大切にしていることがあって。
気に入ったお店は
記録より『記憶』に残す
お店を気に入る要素は人によって様々。
僕の場合、料理が美味しいのはもちろんだけど、店内の雰囲気や店員さんの人柄、客層などそのお店を創り上げている様々な要素が総じて好きじゃないとお気に入りにはならない。我ながら面倒臭い客だと思う。
ただ、その身勝手で直感的なハードルをクリアし、お気に入りとなったお店たちには愛着があって。一度気に入ると何度も足を運びがち。
ある日の食事会。
お店をセッティングするのに、どの店にするか思案しているとき、お気に入り度合いが強い店ほど深く印象に残っているのは、匂いだ。
記憶で匂いを思い出し
匂いが記憶を呼び起こす
誰と一緒だったのか、
どんな会話をし、
どんな食事を愉しんだのか。
匂いや香りは記憶に紐付く大切な鍵。
すべてを記録に残すのも良いけれど、大切な人との思い出こそ記憶に残していきたい。
大切な人と過ごした、大切な時間が甦る。
そんな匂いが好きだ。
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